楽しさを語るまちに。行政と民間、それぞれにできること（後編）

“まちの魅力”って、誰がつくるものなんだろう？

最後の後編では、行政ができることと、民間にしかできないことについて考えています。
プレイヤーを支える仕組み、公民連携のあり方、そして自分自身が地域と関わっていくための視点。

自分が立ち上げたローカルメディア「さくラボ」のことも少し紹介しながら、暮らしの中で「まちを育てる」ってどういうことかを綴っています。

行政にできること、民間にしかできないこと

もちろん、こうしたまちの魅力を育む取り組みを、民間だけで支えるのは簡単なことではない。
だからこそ、行政には“土を耕す人”としての役割を果たしてほしいと思っている。

つまり、プレイヤーとして前に出すぎるのではなく、プレイヤーが育つための“畑”を整える存在として。
あくまで主役は、まちに暮らす人たち自身。その人たちが動き出しやすくなるように、環境を整えるのが行政の仕事だ。

たとえば、空き家や遊休施設の利活用がしやすくなる制度や、初めてのチャレンジでも手が届くような小規模の補助金制度。
あるいは、市民の活動が広く認知されるような情報発信の仕組みなど。
そうした“背中を押す仕掛け”こそが、今の佐倉にはもっと必要だと思う。

一方で、行政が前に出すぎてしまうと、本来芽を出すはずだった民間の挑戦の場が奪われてしまうこともある。
活動の余白がなくなり、試行錯誤の機会が失われ、地域に経験や知恵が蓄積されなくなってしまう。
それはまちにとって、大きな損失だ。

これは、外部の大手事業者への業務委託でも同じだ。
確かに、効率的に事業を実施できる力はあるかもしれない。
けれど、その過程で地域の人が関わる機会がなければ、知識やネットワークは地域に残らず、ただ“実施された”だけで終わってしまう。

結果として、一時的な成果は出ても、次につながる担い手が地域の中に育たない。
その取り組みが再生産されず、続いていかない。

近年では、公民連携（PPP）やPFI（Private Finance Initiative）といった仕組みが多くの自治体で導入されている。
公共施設の整備や地域プロジェクトに、民間の資金やノウハウを活用することで、行政の財政的・人的な制約を補い、効果的な事業展開を可能にする手法だ。

この枠組み自体は、地域に新しい視点やスピード感をもたらすという点で、とても有効だと思う。
ただし、その活用の仕方には慎重さが求められる。

民間プレイヤーがいるならば、まずは地元の担い手を最優先に考えるべきだ。
そのまちで暮らし、空気を感じながら動く人たちこそが、まちを持続的に面白くしていく力になる。

それでも、もし今その地域に適したプレイヤーがいないのだとしたら──
行政がすべきは「代行すること」ではなく、地域にその担い手が生まれていくプロセスを支えることだ。

その意味で、公民連携やPFIといった枠組みも、「最終的に地元の担い手を育てること」を目的とした“手段”として活用されるべきだと思う。
外部に任せること自体が悪いのではない。
重要なのは、関わる中で地域に経験と関係性が移転し、いつか地元の誰かがそれを引き継げるような形にしていくこと。
公共と民間、そして市民とのあいだに、そうした“渡し方”の意識があるかどうかで、その取り組みの価値は大きく変わってくる。

そのためには、行政が“最初の一歩”を踏み出すことが必要な場面もある。
けれど、その一歩はあくまで「場づくり」のための一歩であって、行政が主役になり続けるための一歩ではない。
試行的にやってみて、方向性や可能性が見えてきたら、次は民間へとバトンを手渡していく。
その循環を意識的につくり出すことこそが、行政に求められる役割だと思っている。

まちの主役は、あくまでそこに暮らす人たち自身。
行政が環境を整え、民間が動き出し、市民が自分の楽しさを見つけていく。
そんな自然な循環が、このまちの未来を少しずつ、しかし確実に形づくっていくのではないだろうか。

「まちにダイブしよう」ということ

公民連携の現場などでよく耳にする「まちにダイブしよう」という言葉。
そこには、行政の人間ももっと現場に出て、人や空間に触れ、地域の声に耳を傾けていく必要がある、という思いが込められている。

同時に、民間の私たちもまた、自分のまわりにある店やサービス、空間にもっと関心を向けて、実際に足を運んでみることが求められているのだと思う。
「関わること」は、なにも特別な立場やスキルを必要とするものではない。
小さな一歩でいい。
身近なところから、まちとの接点を持つことが、地域を育てる原動力になる。

情報や制度だけでは見えてこない、地元の小さな魅力や動きに触れることで、私たちは初めて「当事者」になれる。
それぞれの立場で、自分にとっての「まち」に飛び込んでみる。
そうして一歩を踏み出す人が少しずつ増えていけば、佐倉というまちはもっと多彩で、しなやかで、温かい場所になっていくはずだ。

私は民間の立場として、そうした“楽しさの種”を見つけたり、つないだり、伝えたりしていくことに関わっていきたいと思っている。
その一環として立ち上げたのが、佐倉のローカルな情報を暮らしの目線から発信するWebメディア「さくラボ」だ。

市民一人ひとりが「自分のまちを語れる人」になれるように。
「さくラボ」を、あなた自身の“まちにダイブする一歩”として使ってもらえたら嬉しい。
誰かの何気ない視点や、小さな発信が、きっと別の誰かの一歩を後押ししていくはずだ。

地域に関わることは、特別なことじゃなくていい。
ふらっと寄ったカフェの空気感に癒されたり、誰かにおすすめしたくなる風景を写真に撮ったり。
そんな日常の中にある気づきや行動が、まちを面白くしていく原動力になる。

あなたにとっての「まちにダイブする」は、どんな一歩ですか？
きっとその一歩が、誰かにとっての「佐倉の魅力」になるかもしれません。

まちは、誰かがつくるものではなく、楽しみながら関わることで少しずつ育っていくものなのかもしれない。